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カンタータ第78番《イエスよ、汝はわが魂を》

バッハの教会カンタータ (26) BWV78

カンタータ第78番《イエスよ、汝はわが魂を》
Jesu, der du meine Seele
1724, 9/10 三位一体節後第14日曜日

カンタータ第78番《イエスよ、汝はわが魂を》BWV78は、バッハのライプチヒ2年目の作品です。
この作品は、バッハの教会カンタータの中でも、特に優れたものの一つでしょう。最 初から最後まで全くゆるみがなく、楽想もとりわけ魅力的、かつ深く鋭い表現に満ち ています。

▼まず、最初の合唱曲で完全に心を奪われるのですね。標題は、この合唱曲の「イエ スよ、受難の死によって、あなたは私の魂を救い…」といった歌詞から来ているので すが、そう言うことを知らなくても、この合唱曲の、寄せては返す波のように、 徐々に盛り上がっていく迫力はすごい。今までに聞いた中では、BWV150(バッハの最 初のカンタータかも知れない)やBWV12(ワイマール時代)にありましたが、この曲 もパッサカリアの形式をとっています。つまり、同じ低音主題が繰り返される上に 乗って、楽想が発展していくのです。アルト、テノール、バスが絡み合っていくと、 やがてソプラノがコラール風に入ってくるという形は、ちょっとマタイ受難曲の第1 曲を思い出させます。とにかく、これは言葉ではとうてい尽くせない、すばらしい合 唱曲です。

そして第2曲アリア。このソプラノとアルトのデュエットがもうたまりません。これ ほど明るく精彩に満ちたデュエットは、バッハといえどもめったに作れるものではあ りません。楽器としては、チェロが活躍するのですが、要するにチェロ、オルガン、 ヴィオローネという低音楽器だけの伴奏で、声の魅力が100%発揮されています。

ところが第3曲、テノールのレシタティーヴォで、がらりと様相は変化し、おのれの 罪に心を引き裂かれそうになりながら、救いを求める切実な思いが語られます。増音 程や減音程が頻繁に現れ、調性も定かでないような展開。ただし、あくまでもバロッ ク音楽的です。

余談ですが、礒山雅さんは、青年時代にこのレシタティーヴォを聞いて、回心に近い 経験をされたそうです。私も、青年時代に、恐らく教会カンタータで聞いたのはこの 曲ぐらいだと思うのですが、「78番」としてはっきり印象に残っていたのはこのレ シタティーヴォだけでした。

第4曲、テノールのアリア。フルートのオブリガートが印象的ですが、歌は気分の高 揚を感じさせるものです。"Streite"(戦い)が繰り返し1オクターブ下への跳躍で歌 われ、さらにコロラトゥーラで歌われるところ、"beherzt"(勇気のある)が繰り返し 5度6度上への跳躍で歌われるところなど、言葉と音楽が非常に印象的に組み合わさ れています。

第5曲、バスのレシタティーヴォ。今一番気に入っているのがこの曲です。前半の音 画技法による緊迫感──"und Grab"(そして、墓)で、11度も下に跳躍したり、地 獄の呪いの描写と、その後に来る平安。後半のアリオーソ部分の情感に満ちた弦楽合 奏による伴奏。テノールの息も絶え絶えのレシタティーヴォとは対照的に、苦難の末 に確信にたどり着いた姿が見事に表現されています。

第6曲、バスのアリア。ここでは、おさえきれない喜びを表して、オーボエのオブリ ガートが「乱舞」するかのように吹きまくります。7回聞いても、全く飽きることが ありませんでした。(もちろん、曲全体がそうなのですが。)

そして、終曲コラールが高らかに信仰の勝利を歌って、全曲をしめくくります。

▼以上のように、合唱もアリアもレシタティーヴォも、ソプラノもアルトもテノール もバスも、隅から隅までどこをとっても輝きにあふれている、意味のない音符は一つ もない、と言うべきすばらしい作品です。これは実に、バッハの教会カンタータの典 型と言うべきものです。すなわち、もしバッハの教会カンタータを一生に1曲だけ聞 くとしたら、この作品になるかという気がするほどすばらしい作品でした。

▼録音も多く、次の8種類を聞きました。

1.リヒター             1961 ARCHIV
2.エアハルト・マウエルスベルガー  1970 EDEL
3.リリング             1979 Hänssler
4.アルノンクール          1978 TELDEC
5.ヘレヴェッヘ           1987 Harmonia Mundi
6.リフキン             1988 L'OISEAU-LYRE
7.ジェフリー・トーマス       1995 KOCH
8.Leusink(発音が分からない)    1999 Brilliant

ただし、最後のは、2曲目まで聞いてパス。ちょっと、他の演奏に比べると精彩があ りませんでした。

▼さて、演奏ですが、善し悪しの前に、冒頭の付点音符の演奏法が違うものがあります。これを複付点音 符として演奏するのが3.4.7.で、曲の感じはかなり変わってきます。複付点音符とするのは 、もちろん根拠はあるのでしょうが、3.4.などちょっとアクセントがきつくて余り楽しめ ませんでした。

礒山さんも、私も、青年時代に聞いたのはリヒターの演奏です。これでテノールがヘ フリガーだったらさらに素晴らしいものになったのではという気がします。マウエルスベルガーの演奏も篤実なすば らしいものです。テノールはシュライヤー。この時代のシュライヤーはまだ端正で良 いと思います。後になるほど饒舌になり、ちょっと鼻につくようになりました。バス のテオ・アダムもすばらしいです。

ピリオド楽器の方では、ヘレヴェッヘとリフキンは一長一短ですが、どちらも良い演 奏と思います。特に、リフキンのデュエットなど非常に好感の持てるものでした。バ スは、リヒター盤のエンゲンやマウエルスベルガー盤のアダムの方がずっと良いよう に思いました。

ジェフリー・トーマスについて一言。「アメリカン・バッハ・ソロイスツ」という団 体を率いて、教会カンタータの有名どころを今までに6枚録音しています。バッハ・ コレギウム・ジャパンは世界的に話題になっていますが、アメリカの方もなかなか頑 張っています。

(2001年3月17日)

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2002-03-31更新
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