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カンタータ第77番《汝の主なる神を愛すべし》

バッハの教会カンタータ(45) BWV 77

第77番《汝の主なる神を愛すべし》
Du sollt Gott, deinen Herren, lieben
1723, 8/22 三位一体節後第13日曜日

以前に第5曲目アリアのトランペットのオブ リガートが、じーんと来るという話を書いたことがありました(ニュースグループのこと)。ともかく、トラン ペットの活躍が印象的な作品です。

▼構成は、前回、前々回と同じく、最初に合唱曲があり、レシタティーヴォ、アリ ア、レシタティーヴォ、アリア、そしてコラールという簡素なものです。

最初の合唱曲は、良くあるパターンですが、合唱フーガに対してトランペットが定旋 律を奏するというもの。定旋律はルター作の「これぞ聖なる十戒」というもの。この 合唱曲の中で、トランペットが10回入るそうですが、一度数えてみてください。な お、定旋律は4声コラール(BWV 298)、オルガン小曲集(BWV635)、ドイツオルガンミ サ(BWV 678,679)でも出てきます。また、この合唱曲の主題自体、この讃美歌から取 られているのがわかります。冒頭の弦楽合奏は、なかなかさわやかで良い曲です。

あっさりしたレシタティーヴォ(B)の次に、ソプラノのアリア。2本のオーボエをと もない、重要な単語ではメリスマの駆使。それなりに聞きごたえのある曲です。

次のレシタティーヴォ(T)は弦楽合奏をともなった、なかなか充実したものです。歌 詞も、「良きサマリヤ人の喩え」に関連し、隣人を慈しむ心を与え給えと祈る真摯な ものです。

さて、次のアリア(A)は、トランペットと通奏低音だけの簡素な曲ながら、とにかく トランペットが泣けます。バッハのトランペットの使い方は、華やかないしけたたま しいものがけっこう多いですが、ここでは技巧的ながらしっとり節。ちょっとこうい う感じの使い方は少ないのではないでしょうか。とにかくもう「泣ける」とか「ぐっ と来る」とか、ごく端的な表現しかできませんが、何回聞いても飽きないですねえ。

で、最後のコラールでおしまい。このコラールは、締めくくりと言うだけでそれほど 重みは感じません。実際、バッハ自身歌詞も指定していないぐらいですから。

というわけで、私の好みとしては、1曲目の合唱曲はそれなりに素晴らしい。あと、 4曲目から5曲目の感情が深いなあと言う感じでした。

▼演奏は、一応全集盤のみで。

Leonhardt 	1978
Rilling  	1983
Koopman  	1998
Suzuki   	1999
Leusink  	2000

というようなものでした。レオンハルトのは、上に述べたような点での良さがあまり 感じられませんでした。リリングのトランペット最高。テノールのクラウスも良いの ですが、ただ一つ、1,5,6曲は1983年、2,3,4曲は1972年というテイクのあり方は疑問 です。コープマンは、合唱曲が抜群にうまく、唯一曲の真価を発揮しているものとさ え言えます。他の曲も全体に良いのですが、惜しいことに5曲目アリアのトランペッ トがたどたどしく、つや消しです。

鈴木は音響的に整っている、それだけと感じます。なぜ、こんなに感情に乏しいのか ?音楽と歌詞が本来持っているはずの感情が、なぜほとんど伝わってこないのか?テ ノールも相変わらず歌っているだけで、歌詞に無頓着ですが、これはテノールだけの 問題ではないという気がしてきました。

実は、レーシンク盤のテノールを聞いているとき、なぜか鈴木盤を聞いていると錯覚 してしまったのですが、音程はいつもより不確かで声も少し濁っているが、今までよ りずいぶん良い歌い方になったなあ、発音も良くなったなあ、これで精進すればずっ と良くなるなあなんて考えていました。気がついたら、別の歌手でした。

さて、これ以外に、5曲目のアリアだけですが、ルートヴィッヒ・ギュットラーがト ランペットを吹いているレコードがあります。(Capriccioで"Bach Trumpet"というア ルバム) さすがにトランペットはうまいですね。ほれぼれします。しかし、アルトが 弱いので、曲のバランスとしては、やはりリリング盤が最上でした。

(2001年8月22日)

(追記)なお、リリングのテイクについて、 以下はもとのニュースグループでのカオルさん(掲示板にもmsg:11で書き込んでくださっています。)のコメントです。

これは、あくまで想像ですが、旧録音におけるトランペットが不満だったので はないでしょうか。
 ここでラッパを吹いているのはハネス・ロイビンという有名な人、ソリストで はないが有名なオケマンです。ロイビン3兄弟の長兄ですね。茂木大輔さんの 「オーケストラは素敵だ」にも登場します。(この本にはリリングのリハーサル の仕方、カンタータをオケや合唱のメンバー、聴講生に教える方法が書かれてい たり、リリングの行ったカンタータ最後の録音のときの情景まで書かれているの であります。)
 彼がいたために、おそらくラッパの加わる3曲(1、5、6)を録音し直した のだと思います。その結果は、もちろんご存じの通り。
このあたりの話には全く疎いので、引用させていただきました。ありがとうございます。

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2002-12-15更新
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