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カンタータ第69番a《わが魂よ、主を頌めまつれ》

バッハの教会カンタータ(44) BWV 69a

第69番a《わが魂よ、主を頌めまつれ》
Lobe den Herrn, meine Seele
1723, 8/15 三位一体節後第12日曜日

小泉首相は終戦記念日が来る前にさっさと靖国神社に行っ てしまいましたが、そういうこととは全く関係なく、カンタータ第69番aです。

ちょっとこの番号は中途半端ですねえ。カンタータ第69番と言うのは、同じ題名で市 参事会交代式のために作られた、バッハの晩年1748年の作品なのですが、aの方はそ の原曲です。1曲目合唱曲は同じ、2曲目、4曲目のレシタティーヴォは差し替え、 3曲目のアリアは原曲テノールから移調しアルトに変更、歌詞も一部変わっていま す。5曲目バスのアリアは同じ、最後のコラールは曲を変更し、トランペット、ティン パニを加えて華やかにした、と言うのが変更の大まかな内容です。

       BWV69a(1723)            BWV69(1748)
1 合唱                   合唱(同じ曲)
2 レシタティーヴォ(S)    レシタティーヴォ(S,別の曲)
3 アリア(T)              アリア(A,同じ曲を移調、歌詞は一部変更)
4 レシタティーヴォ(A)    レシタティーヴォ(T,別の曲)
5 アリア(B)              アリア(同じ曲)
6 コラール               コラール(別の曲)

▼さて、まずはトランペット3本、オーボエ3本、ティンパニ鳴りまくりのど派手合 唱曲です。しかし、音楽に力がこもっていて、やかましい感じはしません。「神を誉 め讃えよ、神の恵みを覚えよ」と、たったこれだけの歌詞で5分以上歌っています。 明るく華やかな合唱フーガです。

2曲目はソプラノが「ああ、私に舌が千枚あったら」云々と、大げさに神を讃える思 いを語ります。なんと言うことはないセッコ・レシタティーヴォ。

3曲目アリアは、リコーダーとオーボエ・ダ・カッチャの伴奏に乗って、テノールが のどかにも楽しい歌を歌います。ただし、けっこう技巧的。

続くアルトのレシタティーヴォは、自分が幼時より数々の神の恵みを受けてきたこと を回想し、さらに神を誉め讃えよという語りです。何となく荒井由美の「小〜さい 頃〜は、神〜様がいて」と言う歌を思い出してしまいました。終わり頃の"Hephata" という語から急に音楽が動きますが、これはヘブライ語で「開かれよ!」と言う意味 だそうです。

5曲目のアリアは、音楽的にも内容的にもこのカンタータの中核をなすようです。こ こでも、カンタータ第6番や19番と同様に「われ(ら)と共にとどまりたまえ」と 言う歌詞が大きな位置を占め、十字架の「受難」と私が歌う「喜び」という二つの単 語が、それぞれ下降的なメリスマと上昇的なメリスマで歌われるあたりが、一番の聞 き所でしょうか。伴奏のオーボエも実に印象的な使われ方をしています。特に、9小 節目と17小節目で一瞬あたりの空気を払って、まっすぐに鳴り出すところ。これだ けでも、バッハはすごいと思ってしまいます。

最後のコラールは、カンタータ第12番《泣き、歎き、憂い、怯え》で使われていたの とよく似た編曲が、簡素な形で歌われて終わります。ここでも、トランペットが合唱 に重なるようですが、全く派手な印象はありません。ティンパニ奏者は第1曲が終わ れば帰っても良さそうです。このあたりが、後年の改作につながったのでしょうか。

▼この69aの形での演奏は少なく、通して演奏しているのはアルノンクール、コープ マン、鈴木の3種類です。リリングの全集にはもともと69aが含まれておらず、今度 のHänsslerのバッハ全集に補遺の形で、変更のあった部分だけ録音しています(コラールは含ま ず)。

Harnoncourt	1977
Koopman    	1997
Rilling    	1999
Suzuki 	   	1999

この中では、鈴木の演奏がともかく音響的に立派です。最初の合唱は特に全体のバラ ンスが良く、ちょっと文句の付けようがありません。ただし、テノールの桜田はあま りに一本調子で、歌を感じさせません。別に感情を込めて歌う必要はありませんが、 言葉と旋律に当然つきまとうはずの情緒が一切感じられないと言うのもちょっとおか しいのです。レシタティーヴォはどちらも感心しませんが、これは音楽的にもそれほ ど重要ではないので、特に問題ではありません。バスのコーイはやはり少し機械的な 感じもしますが、まず立派な歌です。メリスマの部分はオーケストラと相まって迫力 があります。最後のコラールは文句ありません。

コープマンの演奏は、いつものように肩の力の抜けた自然体の演奏ですが、時々肩の 力だけでなく全身の力が抜けたような演奏があるのが残念です。ここでも、最後のコ ラールなど、やる気があるのかと言いたい。バスのメルテンスも、ソフトで感じはよ いがもう少し強い主張をしてほしい。テノールのアグニューは桜田よりははるかに自 然な歌があり、こういうくつろいだ曲ではコープマンの良さが良く出るようです。

アルノンクールは、全体に強引な感じで、もう一つ楽しめませんでした。

最後に、リリングは変則的な聞き方になりますが、アリアもレシタティーヴォも、一 番納得でき、素直に心に入ってきました。こういう歌を聞いていると、歴史指向の演奏 家たちは、時として一番簡単なことを忘れることがあるのではないかと感じました。

先に述べたように、リリングはもともとBWV69しか録音しておらず、今回の全集のために BWV69aの2,3,4だけを録音しました。そこで、69の第1曲、69aの第2〜4曲、また69の 第5曲とCDを取り替えながら聞くわけですが、残念 ながら69aのコラールは録音していないので、結局完全には聞くことができないので す。

しかし、どうしてもと言うのなら、BWV99などに69aと同じコラールが出てくるので、これ を最後に聞けば、一応69aをすべて聞いたのと同じような結果になります(和声付け や伴奏など多少違いますが)。そんなつぎはぎの聞き方でええんかいなと思います が、リリングの録音の中には実際に10年以上時期の違う録音をつぎはぎにしたものが あるようです。

(2001年8月15日)
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2002-12-08更新
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