カンタータ第155番《わが神よ、いつまで、ああいつまでか》


バッハの教会カンタータ(21) BWV155 (ワイマール時代16)

カンタータ第155番《わが神よ、いつまで、ああいつまでか》BWV155
Mein Gott, wie lang, ach lange
1716, 1/19 顕現節後第2日曜日

前回の152番は、おだやかな美しさがあるがちょっと眠い曲でした。(それって、自 分が眠かっただけじゃ?)一方、155番は非常に意欲的な迫力を感じる曲です。

▼曲の規模は小さく、レシタティーヴォとアリアが交互に2曲ずつ、そしてコラール という簡素なものです。また、全体の歌詞は、果てしない苦悩から、やがて苦悩が終 わる時への希望、やがて重荷がおろされ、神の元に飛び込んでゆく喜びといった物語 になっています。歌詞そのものは平凡なものなのに、バッハの音楽によって、実感に 満ちたものとされているのが印象的です。

最初のレシタティーヴォ、執拗な8分音符の連続する通奏低音にのって、《わが神 よ、いつまで、ああいつまでか》と、果てしない苦悩と絶望が歌われるのが、単調に 陥らず迫力があります。曲の最後の方で、「喜びのワイン」という言葉にのって、一 瞬喜ばしい旋律が展開されますが、そのワインはこぼれ、さらに暗い絶望に陥りま す。

次のアリア(デュエット)(A,T)は、大変魅力的な曲ですね。まず、ファゴットの動 きがすばらしい。(むずかしい?)歌の方も、親しみやすいメロディー、美しいハー モニー、特に不協和音が次々現れるあたりが何とも言えません。「信じよ、望みを持 て、やがてその時が来る」と励ましてくれます。次のバスのレシタティーヴォも、低 音のチェロの動きがなかなか良いです。

4曲目のアリア(S)は、付点音符のリズムによる、跳躍するような曲。弦楽の伴奏部 が、実に大胆な展開を見せます。バッハにしては、非常に新しい感じで、ちょっと驚 きました。

そして、最後のコラール。ホ音のフラットとロ音のナチュラルが、ちょっと印象的な 曲と感じました。このコラールは他のカンタータでも何度か使われ (BWV9,86,117)、 またオルガン小曲集(BWV638)にも使われています。

▼この世の悩みを持つ人にとって、それはいつ果てるとも知れない、長い長いトンネ ルのように感じられるものです。このカンタータの歌詞は、平凡なものながら、その ような気分にぴったり来るものがあり、300年近い年月を隔てても、人の心は同じ ようなものだと実感させられます。慰めもあり、音楽的にもきりっと引き締まった佳 品でした。

▼やはり、演奏はアルノンクールが断然優れていたと思います。ボーイソプラノのア ラン・ベルギウスは非常にうまかったし、チェロの動きのおおらかさと迫力、弦楽合 奏の切り込みの鋭さ等、他の演奏には見られないものでした。この曲の場合、コープ マンも柔らかさがありながら、しっかりした演奏でした。BCJの演奏も、なかなか 良いものです。これは、前回の152番の次に入っており、他に18番や161番という名曲 も入っている、お徳用です。

と言うわけで、ワイマール時代の作品としては、後1曲、カンタータ第31番《天は笑 い、地は歓呼す》を残すだけとなりました。

(2000年10月8日執筆)


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